「労働者供給」禁止の意味

労働者派遣と何が違うのか?

「労働者供給」という言葉をご存知でしょうか。「労働者供給」とは、自己の管理下にある労働者を他人の指揮命令下のもとで他人に使用させ、利益を得る形態のものをいいます。この表現を聞くと、労働者派遣を思い浮かべる方も多いでしょう。

かつて「口入れ屋(人入れ屋)」という商売が存在していました。時代劇などでもたまに出てくることがありますが、典型的なのは、親分が子分に対し「オレの知り合いのところで働いてこい」という風に、自分の影響力を使って子分を働かせ、その賃金を親分が受け取り、中間搾取(ピンハネ)するといった内容です。

当然子分は親分の命令ですから、言われた通り、知り合いの所で働きます。それがたとえ過酷な労働環境にあったとしても、親分の顔を潰す訳にはいきませんから文句も言いません。

この商売は、明治の初期頃まであったようですが、現代では当然禁止されています。組織の支配下にある者が、意思に反して働かされる強制労働の危険性、雇用契約がどこにあるかが分かりにくいこと(あるのかないのか、それとも二重にあるのか)それによる責任の所在の不明朗、中間搾取(ピンハネ)発生の恐れ、などが禁止の理由です。

実は派遣事業も、外形的にはまさに自己の管理下にある労働者を他人の指揮命令下のもとで他人に使用させる形態で、事実、かつては労働者供給の一つだとされていました。しかしながら、経済、社会の発展により現実にはそのようなものが発生し、相応のニーズもあったため、これを一部合法化しようという動きが出始めました。結果として、労働者供給の中から「一定の条件」のもとに括り出されてできたのが「派遣」という業態です。

労働者派遣とは、派遣元が雇用する労働者を派遣先の指揮命令下で勤務させる形態を言います。派遣が成立するために重要なのは雇用契約の存在があって、しかもそれが派遣元と労働者の間に一元化していること」です。

これにより、労働者に対する使用者としての責任の所在が明らかになり、労働者供給の問題点が抑えられると考えられた訳です。「派遣は労働者供給の一形態で本来違法だが、責任の所在が明確だから合法にしよう」という、かなり微妙な線の上で存在していることがわかります。

派遣労働者を受け入れる企業が気を付けなくてはいけないのは「事前面接」を行なうと、派遣労働者に対し、派遣先企業の影響力が強まります。結果として労働者の特定がなされるとさらに影響力が強まります。(派遣法では事前面接が禁止されていますが実際の契約では多くの場合行われています。)いわば派遣先企業と派遣労働者の間にも雇用契約が発生してしまうような状態になり、「雇用契約の一元化」が崩れ、労働者供給につながる恐れがあります。