採用時の「身元保証」

「民法の一部を改正する法律」が202041日から施行されました。

民法の改正は1896年の制定以来、124年ぶりの大幅な改正です。

企業の採用活動にも影響が出る事項のひとつに「身元保証」がありますが、身元保証には、主に3つの役割があると言われています。

・雇い入れる者の経歴などに問題がなく、従業員として適性か
・雇い入れる者が将来的に会社に損害を与えた場合、身元保証人にその損害を補償してもらう
・緊急時の連絡先としての役割

企業は、身元保証契約を結ぶことにより、将来、その従業員よって損害を被った場合に、従業員本人だけでなく身元保証人に対しても損害請求を行うことができます。ただし、今までは賠償額について定めなくてもよかったのですが、今回の民法改正によって、今年41日以降の契約では、その上限額を定めなくてはいけなくなりました。

また、身元保証については、身元保証人の責任が重くなりすぎないように、「身元保証に関する法律」で、別途規定されています。

では、「賠償額の上限いくらか?」というと、法律で決まっているわけではありません。企業が自由に決めてもよいのですが、あまりに高額だと身元保証人が躊躇し、引き受けてくれなくなる可能性もありますから、現実的な金額で設定することが望ましいです。

併せて、今回の改正で、賠償額の上限が明確になることで、身元保証人から、「どういった場合に請求されるか」といった内容の説明を求められることがあるかも知れません。企業としては、金額を定めるうえで、請求が想定される事情についても今一度検討するべきでしょう。

ちなみに、身元保証人の損害賠償責任が争われた場合、全額の賠償が認められることはほとんどないと言えます。裁判では、諸事情を考慮したうえで判断される傾向にあり、過去の判例によれば、その都度ケースバイケースで、損害額の24割程度を身元保証人が負担するのが一般的のようです。

また、身元保証書について、採用時に取得したものの、それ以降は更新をしていない企業も見受けられます。民法改正が改正されたこの機会に、身元保証書の整備と運用について、見直しをしてみてはいかがでしょうか。

【身元保証に関する法律】※現代語訳

1
引受、保証その他どのような名称であっても、期間を定めずに被用者の行為によって使用者
の受ける損害を賠償することを約束する身元保証契約は、その成立の日より三年間その効力
を有する。但し、商工業見習者の身元保証契約については、これを五年とする。
第2条
1.身元保証契約の期間は、五年を超えることはできない。もしこれより長い期間を定めたと
きは、これを五年に短縮する。
2.身元保証契約は、これを更新することができる。但し、その期間は、更新のときより五年
を超えることはできない。
第3条
使用者は、左の場合においては、遅滞なく身元保証人に通知しなければならない。
1.被用者に業務上不適任または不誠実な事跡があって、このために身元保証人の責任の
問題を引き起こすおそれがあることを知ったとき。
2.被用者の任務または任地を変更し、このために身元保証人の責任を加えて重くし、または
その監督を困難にするとき。
第4条
身元保証人は、前条の通知を受けたときは、将来に向けて契約の解除をすることができる。
身元保証人自らが、前条第一号及び第二条の事実があることを知ったときも同じである。
第5条
裁判所は、身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるとき、被用者の監督に関す
る使用者の過失の有無、身元保証人が身元保証をするに至った事由及びそれをするときに
した注意の程度、被用者の任務または身上の変化その他一切の事情をあれこれ照らし合わ
せて取捨する。
第6条
本法の規定に反する特約で身元保証人に不利益なものは、すべてこれを無効とする。