代理人による契約の効力

権限が与えられていなくても契約が成立する場合がある

先日、クライアント企業から、代理人による契約の有効性について相談がありました。

営業所で使用している複合機が古くなったので、買い替えるか、リースにするかを検討するため、営業所長に見積りの取り寄せを指示したところ、営業所長が勝手にリース契約をしてしまったというのです。

結果として争いにはなりませんでしたが、場合によっては大きなトラブルに発展する可能性がある事案でした。

中小企業庁に寄せられた相談事例の中に、商材こそ違いますが非常によく似た内容のものがありましたのでご紹介します。

小売業A社が、電話機の販売代理店の訪問営業を受け、電話機の購入を勧められる。

代表者等責任者が不在だったため経理部社員が説明を聞き、販売代理店に促され購入契約書に代表者の氏名等を記入。


A社の主張は以下の2点

・電話機を購入する意思が無いこと
・契約書は社員が営業担当者に促され、決裁権者に無断で記入したものであり、契約は無効

販売代理店はこれに対し、契約成立しているとして拒否。

このような場合、契約の効力は認められるのでしょうか。

本件の場合は、経理部社員の行為が代理人による法律行為にあたるか否かが、契約の効力を判断するにおいて、重要なポイントになります。

法律行為とは、例えば、ある物を「売りたい」という意思表示と、それを「買いたい」という意思表示に基づいて法律効果(権利・義務)が発生することをいいます。

代理人による法律行為については、代理権のない者が代理人として行った契約は無権代理行為として無効となるのが原則です。しかし民法は表見代理として、相手方からみて、代理権があると誤認してしまう場合に、代理権がある場合と同様の効果を認めています。(民法110条、113条)

A社において、経理部社員に与えられている権限の度合によって異なりますが、一定の権限が与えられていれば契約は成立していると考えられます。また、権限が与えられていなくても、社内における地位の高い者(取締役や部長など)による行為である場合も契約は成立していると考えられます。

クライアント企業のケースでは、営業所長という役職だけで相手方が代理権を誤認したとは考えにくく、無権代理行為を主張したことで契約を撤回することができました。

いずれにしても、事業者等はクーリングオフの適用対象外ですから、安易な契約はリスクを伴います。事業者間の契約は当事者同士での解決が原則となりますから、慎重な対応を心掛けましょう。

【民法】

第99条 (代理行為の要件及び効果)

代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。

110 (権限外の行為の表見代理)

代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

第113条 (無権代理)

代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない