業務委託契約のはずが実態は「偽装請負」になっていた

受け入れる側も注意しなくてはいけない

現在の商取引においては、様々な分野で業務委託契約が締結されることがあります。例えば、必要な期間、エンジニアを発注者の元に常駐させるような契約や、製造業で生産ラインの作業を請負うような契約などが挙げられます。

このような業務委託契約の締結にあたり、注意しないといけないのが「偽装請負」になっていないか、という点です。労働者保護の観点から労働者派遣法、職業安定法で禁止されていますので、発注者側も「偽装請負」とはどういう状態を指すのか知っておく必要があるでしょう。

まず「偽装請負」とは何か?判断のポイントは「業務について、誰が指揮命令をしているか」という点です。

業務委託は、発注者がある一定の業務を受注者に依頼する契約のことです。業務委託契約では、納期や仕様、業務を遂行するうえでの方法等は発注者と受注者が協議して取り決めたうえで、業務が受注者に任されます。

そのため業務委託契約では、発注者は、受注者に対してあれこれ指図する立場にないということが言えます。つまり、受注側の会社に勤務する従業員に対する指揮命令系統は発注者ではなく、受注者にあるのです。

この指揮命令系統を理解せず「業者にうちの仕事をやらせているのだからうちが指示するのは当然だ」と、自社の社員に対するような命令をしている発注者が多いのも事実です。本来の発注業務に関係のない倉庫の掃除や催し物の手伝いをさせるといった、ひどい事例も実際にありました。

以下の状態は全て「偽装請負」に該当するとお考えください。

・発注者が受注者(スタッフ)に対して、業務遂行方法に関する細かい指示を出している

・発注者が受注者(スタッフ)に対して、勤務時間の指示や管理を行っている

・受注者(スタッフ)の評価を発注者が行っている

・遅刻や早退、外出にあたり、発注者の承認が必要

・単純な肉体労働の提供のみ

 

適法な業務委託契約であると判断されるために望ましい例は次のとおりです。

・業務の遂行方法の決定やスケジュール管理は受注者(責任者)が自ら行うこと

・発注者が受注者(スタッフ)に対して直接の業務指示は行わない

・業務上必要な場合は全て受注者(責任者)を介して連絡すること

・当初予定していた以外の業務が生じた場合、受注者(スタッフ)と発注者が直接協議しない

・勤務日程は業務の開始前に、発注者と受注者(責任者)が協議の上決定すること

 

この他にも、例えば、個人事業主と業務委託契約をしていながら、その業務遂行の裁量を個人事業主に任せず、発注者の指揮命令によって業務をさせているようなケースがあります。実態は社員と同じなのに業務委託契約という形式にすることで、故意に雇用責任を回避するというのは大変悪質です。

また、派遣会社と称して、人材を斡旋する会社が「偽装請負」をしているケースもあります。代表的なのは、その派遣サービスをうたう会社がスタッフと業務委託契約を結び、派遣先にあたかも人材派遣であるかのように見せかけ、派遣先の指揮命令の元、働かせるというものです。本来は厚生労働大臣の許可を受けた派遣会社が、登録者と雇用契約を結んで派遣スタッフとすべきなのに、個人事業主との業務委託契約にして、そのまま派遣のように働かせてしまうのです。派遣先の会社がこの事実に気づかなければ、「偽装請負」を許してしまっていることになります。

労働者保護の観点がおろそかになると「偽装請負」を助長する立場にならないとも限りません。「偽装請負」を回避するためには、実態に合わせた適切な契約を締結するとともに、適法な業務委託契約であると判断される体制を整備し、それに沿った運用を行なうことが重要です。