債権法(民法)の改正
身元保証の記事でも書きましたが、「民法の一部を改正する法律」が2020年4月1日から施行されました。民法の改正は1896年の制定以来、124年ぶりの大幅な改正です。
民法には契約等に関する最も基本的なルールが定められており、この部分は「債権法」などと呼ばれます。
改正点は大きくわけて以下の4点です。
・保証人の保護に関する改正 ・定型約款を用いた取引に関する改正 ・法定利率に関する改正 ・消滅時効に関する改正
保証人の保護に関する改正
■極度額の定めのない個人の根保証契約
一定の範囲に属する不特定の債務を保証する契約を「根保証契約」といいます。例えば、住宅等の賃貸借契約の保証人となる契約などが根保証契約に当たることがあります。
個人が根保証契約を締結する場合には、保証人が支払の責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めなければ、保証契約は無効です。
■公証人による保証意思確認の手続
事業主が融資を 受ける場合、その事業に関与していない親戚や友人などの第三者が保証人になってしまい、結果的に予想もしなかった多額の借金を背負ってしまうというケースがあります。
そこで個人が事業用融資の保証人になろうとする場合について、公証人による保証意思確認の手続が新設されました。この手続を経ないでした保証契約は無効です。なお、この手続では「保証意思宣明公正証書」を作成しますが、これは代理人に依頼することができません。保証人になろうとする人は自ら公証人の面前で保証意思を述べる必要があります。
定型約款を用いた取引に関する改正
■定型約款が契約の内容となる要件
現代社会では、不特定多数の顧客を相手方として取引を行う事業者などがあらかじめ詳細な契約条項を「約款」として定めておき、この約款に基づいて契約を締結することが少なくありません。
顧客が定型約款にどのような条項が含まれるのかを認識していなくても
・当事者の間で定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき ・定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ顧客に「表示」して取引を行ったとき
この場合には、個別の条項について合意をしたものとみなされます。ですが、「不当な抱き合わせ販売」など、顧客の利益を一方的に害するような条項はその効果が認められません。
■定型約款の変更の要件
今までは事業者が既存の契約も含めて一方的に約款の内容を変更することがありました。今回の改正では、定型約款の変更がどのような要件の下で可能なのかについて新たにルールを設けています。
定型約款の変更は以下の状況において認められます。約款中に「当社都合で変更することがあります」と記載したからといって、一方的に変更ができるわけではありません。
・変更が顧客の一般の利益に適合する場合 ・変更が契約の目的に反せず、且つ変更に係る諸事情に照らして合理的な場合
顧客にとって必ずしも利益にならない変更は、インターネットなどで事前に周知することが必要です。
法定利率に関する改正
民法には、当事者間に貸金等の利率や遅延損害金(金銭債務の支払が遅れた場合の損害賠償)に関する合意がない場合に適用される利率が定められていて、これを「法定利率」といいます。例えば、交通事故などの損害賠償における遅延損害金や、被害者の逸失利益を算定する場合、法定利率を用いることになっています。
今回の改正では、法定利率を年5%から年3%に引き下げています。また、将来的に法定利率が金利動向と大きく離れたものになることを避けるため、金利動向に合わせて法定利率が自動的に変動する仕組みが新たに導入されました。
消滅時効に関する改正
「消滅時効」とは、債権者が一定期間権利を行使しないことによって債権が消滅するという制度のことです。長期間が経過すると証拠を揃えるのが困難になるため,このような制度が設けられていると言われています。
今回の改正では、消滅時効期間をより合理的で分かりやすいものとするため、職業別の短期消滅時効の特例を廃止するとともに、消滅時効期間を原則として5年とするなどしています。ただし、例えば、返済金を過払したため、過払金の返還を求める債権については過払いの時点ではその権利を有しているかどうか、よく分からないことがあります。そんな場合には権利を行使することができる時から「10 年」で時効になります。
法務省が「桃太郎と学ぶ民法(債権法)改正後のルール」というマンガを公開しています。契約のルールや時効についてわかりやすく説明されていますので、よろしければお時間のあるときに読んでみてください。