新型コロナウィルスによる債務の不履行は不可抗力事由に該当するか
「不可抗力事由」の判断は簡単ではない
緊急事態宣言が解除されてから1ヶ月以上経過しましたが、都心部ではまだまだ警戒が必要なようです。事業においても、これから更に大きな影響が出る業界もあるのではないでしょうか。
新型コロナウィルスの影響で、取引先や自社で債務の不履行が起きてしまった場合、どんな責任が生じる可能性があるのか、今年4月1日に施行された改正民法にも触れながら説明します。
自粛要請により、人やモノの移動(行動)が制限され、契約上予定された商品の納品やサービスの提供ができなかった企業も多いことでしょう。ではこうした場合でも、商品を提供する義務を負う企業は契約違反として、損害賠償責任を負うのでしょうか。損害賠償責任を負うかどうかは「不可抗力事由」と「帰責事由」がポイントになります。
「不可抗力事由」とは、外部から生じ、かつ、防止のために相当の注意をしても防止することができない事由等を意味しており、その例としては、地震・洪水・落雷等の予見不可能な天災のほか、戦争等が挙げられます。この「不可抗力事由」による免責は、一般的な契約書にもよく記載されていますし、もちろん当職が使用している契約書にも記載があります。
契約を締結している当事者が、契約通りに債務を履行しなかった場合、その当事者は、契約の相手方から、損害賠償を請求されたり、契約を解除されたりする場合があります。一方で、債務の不履行が債務者の責めに帰すべき事由によらない場合、例えば、当該債務の不履行が「不可抗力事由」による場合には、債務不履行責任を負いません。このように、「不可抗力事由」は、当事者が債務を履行できなかったとき、例外的に、責任が免除される効果をもたらします。
なお、改正前民法においては、債務の不履行を理由に債権者が契約を解除するためには、当該債務の不履行が債務者の責めに帰すべき事由によることが必要であったのに対し、改正民法(2020年4月1日施行)では、債務者の責めに帰すべき事由がなくとも債権者からの契約解除が認められることになりましたので、注意が必要です。
諸外国では罰則を伴う外出禁止令がありますが、日本は都道府県知事による外出自粛要請や休業要請にとどまり、これには法的な強制力がありませんでした。ということは、自粛要請に従った結果として債務を履行できなかったとしても、債務者の責めに帰すべき事由(帰責事由)があると判断される可能性は0ではありません。しかし、休業要請に応じなかった場合、その事実が公表されることになっていたのは、事実上、強制力があったとも言えますし、感染拡大防止という大変大きな社会的意義があったことからすれば、債務者の責めに帰すべき事由によらない場合と判断される可能性もあるように思えます。
新型コロナウィルスの影響で債務を履行することができなくなった場合、それが「不可抗力事由」に該当するかどうかは、具体的な事情から判断されるものです。新型コロナウィルスが流行しているからという理由だけで「不可抗力」だと判断せず、免責が認められない可能性についても対策を講じることが肝心です。
大多数の企業は、コロナウィルスが原因となる契約上の問題を当事者間の協議で解決できると思います。とはいえ、解決が見込めず訴訟に発展するような場合、立証責任をどちらが負うかによって判決の結論が左右されることがありますので、このあたりにも注意を払っておく必要があるでしょう。