オーバーステイ外国人が労災事故を起こしてしまったら…

事業主は不法就労助長罪に問われます

会社員時代、実際にクライアント企業で起きた事例です。大阪の郊外にある30名ほどの会社で、当時、求人を出しても中々応募がなく、人手不足が常態化していました。そこに応募してきたのがオーバーステイの外国人です。応募の時点でオーバーステイには気づいていたものの、何とかこの逼迫した人手不足を解消したいという思いから、この企業は外国人を採用してしまいました。

しかしその後、最悪の事態が起こります。ある日倉庫内での作業中に、外国人が荷崩れに巻き込まれて負傷し、全治3か月と診断されました。

業務中の事故は、たとえオーバーステイの外国人であったとしても労働基準法の規定に基づき補償手続きをとらなくてはいけません。これは療養費だけでなく、休業補償も含まれます。また、万が一後遺障害があるなら、それに対しても補償する義務が生じます。そして、傷病が完治して職場復帰できるようになってから30日は、労働基準法19条により解雇が制限されます(もちろん療養期間中も解雇できません)。補償自体、労災保険を適用するか、あるいは自費で処理するかは事業主の自由ですが、労働安全衛生法は事業主に、死傷病報告を義務付けていますので、報告をしなければ労災隠しになり、処罰の対象になります。

【労働基準法19条】

使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によって休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。

 

「労働基準法」と「入管法」の矛盾

入管法上、オーバーステイの外国人は即解雇する必要があります。しかし、労働基準法にはオーバーステイの外国人について規定がありません。事業主は、従業員が労働災害により休業している期間および、完治後30日は雇用し続ける義務があります。それは、たとえオーバーステイの外国人であったとしても例外ではありません。しかも解雇予告義務がありますから、30日前に解雇を予告か、30日以上の解雇予告手当を支払う必要があります。そのうえ、補償の費用を労災で処理するか自費で処理するかにかかわらず、入国管理局や警察に情報が行きわたりますので、事業主は「不法就労助長罪」に問われることになります。

あらかじめオーバーステイがわかっている場合、絶対採用しないことは当然ですが、採用選考の段階で在留カードの確認と同時に、就労資格証明書交付申請を行っておくべきです。

人手不足で業務が逼迫しているとはいえ、不法就労者を雇用するということは企業にとって大変危険なリスクを伴うということを理解しておいたほうがよいでしょう。